野村剛史論文

野村剛史(2011)『話し言葉の日本史』吉川弘文館

 文献資料から「話し言葉」を再構しようというユニークなアプローチの本で、連休中に2/3ほど読んだのですが、例の上代語の語順についての言及もありました。

===================
……係り助詞の「カ・ゾ・ヤ」があって、その下には当然連体形が現れるわけだが、もう少し詳しく見ると、係り助詞の下に「人の言ひつる」とか「我が来る」とか「君がいほりせるらむ」とか、「ノ・ガ主格〜連体形」が現れているということがわかる。全体は「カ・ゾ・ヤ〜ノ・ガ主格〜連体形」という構造になっている。この順番で「係り助詞〜ノ・ガ主格」が現れる確例は、『万葉集』全体で百八十例くらいである。
《中略》
「カ・ゾ・ヤ」と「ノ・ガ主格」がともに現れる文で「ノ・ガ主格〜カ・ゾ・ヤ」のように逆順になっている例は、確例とはいえないものを含めて最大限に見積もってみても、五、六例しか見あたらない。だいたい、「カ・ゾ・ヤ〜ノ・ガ主格〜連体形」と決まっている。語順に法則があるといってよいだろう。(83〜84ページ)
===================

 この前後の叙述も合わせて見ると、生成文法の興味とは、ややニュアンスが異なっていると感じました。とくにつぎの2点です。

①「か」だけでなく「や」、さらに疑問とは関係ない「ぞ」も同列に扱 っている
②「ノ・ガ主格+連体形述語」を一体化した構成素として捉えている(※上代語の「の」「が」は、関係節や、上記の準体句「人の言ひつる」など、名詞的表現の中でのみ現れるという制約がある)
②は、WH句と主語という2つの名詞句の関係を見るのではなく、「〜カ・ゾ・ヤ」は、「ノ・ガ主格+連体形述語」と対等の関係で張り合っている、という趣旨です。

 この点で、現代語における、「XはYが〜」の構文と似ていると思いました。

 (1)a. 象は[鼻が長い]
  b.??鼻が象は長い
 (2)a. カキは[広島が本場だ]
  b.??広島がカキは本場だ (cf.広島は[カキの本場だ])