日本語のnegative concord

 以前に読んだ渡辺論文を掲載した本の第9章に
言及がありました。要約すると以下の通りです。(番号は原論文のもの)

(17) Q: 何を買ってきたの?
A: 何も。
上の会話で返答の「何も。」は単独で否定の意味を持つ。だから
「何も買ってこなかった。」は2つある否定が1つとして解釈されるので
negative concordである。
 この議論には次のような反論があるかもしれない。つまり、(17)のAは
次のような文の省略であるとする見方である。

(18) 何も買ってこなかった。

しかし(17)のQに対する答えが次のようなものである場合は、
「買って来なかった」が省略されているとは考えない。

(19) 鮎川哲也推理小説

(19)では「買ってきた」が省略されていると考えられる。
「何も」が否定の意味を持つからといって、次のような省略をすると
おかしなことになる。

(20) *何も買ってきた。

 上記の事実に対する渡辺先生の結論は、否定の「ない」は
negative concordが起きている文では否定の意味を失う、というもの。
否定の意味は「何も」が担う。従って、(19)で省略されているのは
「買ってきた」と捉えられることになるとのこと。(なお、(20)が非文である
理由については明記されていませんでしたが、「ない」が省略されていることで
negative concordが起きていないから、ということだと思います。)

 渡辺論文(9章)を添付しました。お役に立てばと思います。

 あと、今読んでいる黒田論文で取り上げられている上代語の疑問文とかかり結び
について、『ガイドブック日本文法史』のp. 92に言及がありました。ご参考までに。