親族関係語の通言語的・歴史的比較

1.英語の場合

兄弟姉妹:brother, sisterは長幼を問わず、性別のみ。また、いずれも本来語 現代英語のuncle, auntはいずれもフランス語からの借用語である。このような基礎語彙が借用されるのは意外に感じられるが、それはさておき、uncle, auntの借用される前、古英語ではどういう語彙が使われていたのだろうか?

伯母、叔母−mōdrige (母方)、faðe (父方) 伯父、叔父−ēam (母方)、fædera (父方)

現代英語とは異なり、古英語では父方か母方かで別の語が使われていた(ただし日本語とは異なり長幼の区別はしない)。なぜだろうか?確信は持てないが、次のような慣習がその理由かもしれない。

ゲルマン人社会では、家督の相続者は男の子であり、もし息子がいない場合は、男系親族が女系親族より優先順位が高かったと報告されている。優先順位は次の通りである(タキトゥス『ゲルマーニア』、泉井久之助(訳)、岩波文庫、p. 96)。

1.兄弟 2.父方の伯父、叔父 3.母方の伯父、叔父

子供がいない場合、父方の伯父・叔父が母方の伯父・叔父に優先したのである。当時の慣習でこのような男系・女系の区別がなされていたことが古英語に見られる語彙構成の説明なのかもしれない。継続して文献を調査したい。

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語源 「いも」 語義:男性の側から同腹の姉妹や妻・恋人を呼んだ語。初出は古事記(712年)。対義語は兄(せ)。 万葉集には女性が同性の友人や姉妹をさして「いも」と呼ぶ場合もある。平安時代以後、「いもうと」という語の成立に伴って「いも」は歌語化した。「源氏物語」では歌またはその引用文にしか現れない。

「いもうと」 語源:説1 イモヒト(妹人)の音便   説2 イロトの転。ウは引音 語義:女のきょうだいのうち、年下のほう。古くは男性の側から姉妹を呼ぶ語で、姉をもよんだ。 参考:平安時代に成立した語。「兄人(しょうと)」と対をなして用いられた。妻や恋人は指さないが異腹の姉妹をさすところが上代の「いも」とはことなる。平安時代には男性側が使うことばであり、女性が自分の年下のきょうだいをさして用いた例は見あたらない。

「兄人」 語義1:女から見て同腹の兄または弟をいう語。初出 伊勢物語10C前 語義2:女から見て姉または妹を言う語 初出 十六夜日記 1279-82頃 語義3:平安時代末期以降、男の兄弟。兄または弟を言う語。後にはもっぱら兄をさす。初出 徒然草1331頃

「姉」 現代の意味で古事記(712年)からある。 「弟」は、「うと」が付かない「おと」では、「兄弟関係にあるもので年下のもの。男女に関わらず言う。弟または妹」の意味で古事記(712年)が初出、「長子でない子、とくに末子」の意味で室町〜近世初が初出だそうです。

「うと」が付く、「おとうと」は、「年下の男のきょうだい。また年下のきょうだい。古くは男女を問わず用いられた」で、古今905-914が初出だそうです。

『旺文社古語辞典』「おとうと」の項 「おとうと」は古くは、男のきょうだいで兄が弟を、女のきょうだいで姉が妹を呼ぶ場合に用いた。一方、女のきょうだいが男のきょうだいを呼ぶときは「せ(兄)」、男のきょうだいが女のきょうだいを呼ぶときは「いも(妹)」を用いた。

補足: 「男が年上の男のきょうだいを呼ぶ場合」 f:id:stmn217:20110425233825j:image:medium

3.中国語の場合

中国語では、叔父・叔母は父方か母方を区別し、さらに「父方のおじ」に限っては年上・年下の区別がある。

・伯父(父方、かつ、父の兄) ・叔父(父方、かつ、父の弟) ・舅父(母方) ・姑母(父方) ・姨母(母方)

参考サイト:http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2006&d=0727&f=column_0727_002.shtml

参考文献 金田一春彦(1988)『日本語』岩波新書、222-223ページ