文法の知識と言語使用の知識

Gahl, Susanne and Susan M. Garnsey (2004) "Knowledge of Grammar, Knowledge of Usage: Syntactic Probabilities Affect Pronunciation Variation," Language 80, 748-775.

 

 生成文法の立場では,語や表現の頻度はPerformance (E-language)の問題であり,Competence (I-language)の一部として取り上げられるべきではない。これに対して認知言語学では,言語の規則性は言語使用からスキーマとして抽出されるものなので頻度についても言語のスキーマに含まれうることになる。この論文では,1つの動詞が複数の補部形式を認可する場合に,頻度が高い補部形式と頻度が低い補部形式における発音時の長さや分節音の省略の有無を検証している。

 従来から,頻度が高い語は短く発音され,分節音の脱落も起きやすいと言われてきているが,本論文ではこのような「頻度効果」が統語のレベルでも起きると仮定する。つまり,頻度の高い文法構造(ここでは動詞とその補部で形成される動詞句の構造)は短く発音され,分節音の脱落も起きやすいと仮定する。例えば,confirmはNP補部と節補部を取るが前者が高頻度であり,後者が高頻度である。これに対して,believeはconfirmと同じくNP補部と節補部を取るが,節補部が高頻度であり,NP補部が低頻度である。VP構造のレベルでは,confirm NPはconfirm 節よりも短く,また分節音の脱落も生じ易いと予測され,confirm 節はconfirm NPよりも長く,また分節音の脱落も起きにくいと予測される。believeについては逆の傾向が見られることが予測される。